これは知人のお母さんの話です。日ごろからとても元気なお年寄りで、身の回りのたいていのことは自分ででき、同居の家族からも「本当に手のかからないおばあちゃん」と言われていました。そんなおばあちゃんM子さんがおめでたい九十九歳の誕生日を迎えたので、同居の長男夫婦をはじめ子どもたちや孫、ひ孫などが大勢集まって白寿のお祝いの会が開かれました。
皆から祝福の言葉を掛けられたM子さんはすっかり気分をよくして、普段は口にしない「ステーキまで食べてみたい」と言い出し、まわりを驚かせました。そして子や孫などに、これまで一度も口にしなかった「ありがとう」という感謝の言葉で喜びを表しました。
ところがその翌日の昼前、家族がおばあちゃんの部屋をのぞいてみて驚きました。M子さんは椅子に座ったまま、穏やかな顔つきで亡くなっていたそうです。後日、おばあちゃんの娘である私の知人はこう話しました。「白寿のお祝いができてほんとに良かった。母があんなに喜んでくれて。手を合わせて感謝の言葉を言ってくれましたが、本当は子供たちの私が、すばらしい一生をみせてくれた母に感謝の合掌をしなければいけないんですね」
by K.O